Zopfcode Essay

140文字で収まらない走り書きの置き場

寮の夢

2021年10月26日の今日、夕食を食べてスマホを触っていると、焼肉屋で2合ほどかきこんだ米と睡眠不足のせいかみるみる眠くなり、買ったばかりのマットレスになだれ込んでしまった。

眠る前の現実はここまで。

気付くと家族がいた。両親だけだった気がする。家族がごく普通にする程度の口喧嘩をしてなんだよも〜と思っていると、寮の友達が車で現れた。曰く、これから寮に乗り込んで一晩泊まるんだそうだ。寮に住んでいた頃はとうに6年も前に過ぎたのにどうやって寝るんだと思いつつも、誘われては仕方ない、当時のようなゆるいジャージを着て車に乗り込んだ。その友達は現実でもよく会うヤツで、夢の始まりにはピッタリであったように思う。

寮に着くと、当時仲が良かった奴らや、あまり話さなかった面々までもが集結していた。時間軸は2021年だとわかっていながら、寮だけはかつてに巻き戻ったような空間だった。昼とも夜ともわからない橙と濃紺のグラデーションが空に広がり、懐かしい廊下は日没後の暗さを呈していた。

今思えば不思議だったのは、みんな「寮に久しぶりに遊びに来た」というテンションだったことだ。みんな現実の仕事のことを気にしながら寮に集まっていた。この時点で十分夢と気付いてもおかしくなかったが、幸いにも気付くことはなかった。

みんなが思い思いの場所へ散っていく。あるグループは風呂、僕らは食堂へ。自分の名前が載った食堂のカードや、AとBから主菜を選ぶところまで、目に付くところはすべてかつてのまま。夕食を食べながら話していると、今日は消灯後にこっそり外で集まって、各位が宴会芸をやりながら飲むんだと聞いた。当然ながら、現実の寮では酒も消灯後の外出も禁物だが、どうやら特例的に許可が出たんだそうだ。いや、それって「こっそり」では無くないか?

飯を食い外を歩いている時点でみんなうきうきしてたまらない。寮で適当な部屋を訪問して談笑していたら月も昇り、夜を迎えていた。

ぞろぞろと例の集合場所に集まる友達たち。ざっと20人はいただろうか。学生の頃はみな外でたどたどしく酒を飲み、時には吐いたりしていたが、いい大人になった今では「あの酒がうまい」とか「ハイボールで糖質制限」とか選り好みするようになっていた。当時よりもビール率の上がった酒缶を右手で掲げ、乾杯した。

「おい、あれやれって!」一発芸を促すヤツ。
「うわ汚www やめろっちゃwww」露出癖のある友達を見てゲラゲラ笑いながらおちょくるヤツ。
「でさ〜最近夜泣きがさ〜」生まれた子供の話をするヤツ。

居心地の良い不思議な空間に自分は居た。一緒にいる友達たちも、そのことを理解しているようだった。

「あ〜〜めっちゃ楽しいわ〜〜」 「うわっ上司から LINE 来た!空気読めよな〜、これが終わったら仕事か〜ほんま嫌じゃわ」 「まぁまぁ今だけでも楽しもうで、また寮でも他の場所でも会えるわ」 「会おうなまた」

再会を約束するかのような会話を交わした直後、2021年の東京に引き戻された。そしていま、楽しさとかすかな喪失感の余韻に涙を流しながらこれを書いている。

自分も、あの場にいた友達たちも、実は本当に異空間の寮へと飛んで、つかの間の再会をしたんじゃないかという程の夢だった。さっきまでビールを握っていた右手のあまりにリアルな感触が、なおさらそれを強いものにした。

多くの友人と再会する場というのは、例の流行り病で減ってしまった分を除かずとも、最近では結婚式が主になっている。結婚もある程度すると落ち着いてくるだろうし、その後は友人たちと会う機会はもっと減ってしまうんだろうか。新鮮な再会の場(実際には会ってないけど)を用意してくれた自分の脳に少しばかり感謝しなければならない。