Zopfcode Essay

140文字で収まらない走り書きの置き場

Amazon Echo とリモートお通夜

例の流行り病により実家に帰省できない/しにくい状況が全国で続いている。ワクチンは打ち終えているが、仮に帰省したとして、自分が東京に戻った後に田舎の親や親戚が直面する地域社会の空気を考えるとなおさら帰省はできない。

帰省できないということは、親戚の不幸にすら顔を出せないということを意味する。特に(平常時であれば)地域総出でやる葬儀に流行地の人間が居ては、身内の不幸なのだからという理解はあれども複雑な気持ちを持たれるだろう。弔いの場に愛する家族や親戚が居ないというのは、送る方も送られる方もなんとも悲しいものだ。

非常に残念なことに、うちの家族でもそれが起きてしまった。祖父の末期がんが判明し、先日亡くなったのだ。

残された時間の活用

診断と宣告を受けたのは4月だった。母親から連絡があり、とうとう来てしまったかと重苦しい気分だった。流行り病の前は年に2回は帰省し顔を出していたので帰省に関する後悔はないが、このまま何もせずその時を迎えると新たな後悔を生むだろうと思い、リモート通話のセットアップを計画した。

id:do_su_0805 が「実家に Amazon Echo Show を送る」というのをやっていて、自分もこれをやることにした。Echo に「アレクサ、○○に電話をかけて」と言うだけで通話できるから、祖父母に一切無理を強いることなく導入できる。メモ用紙に書いておけば忘れても安心だ。

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父方と母方の実家に送られる2台・音量ボタンにはテプラを貼った

祖父母に無理をさせない以上に、それを設置する両親にもストレスフリーであることが求められた。イオシスで安売りしていた 4G モバイルルーターに IIJmio ギガプランの SIM を挿し、Amazon Echo Show 8 の接続とセットアップを済ませた状態でパッキングし発送した。ここまでやれば、設置は電源の接続と「ルーターの起動時に出るダイアログで OK を押す」という操作だけで済む。加えて、機器の設置・アプリのインストール・Amazon アカウントとの紐付けなどはすべて図解で Google Slides にまとめ、どこでも閲覧できるようにした。Echo デバイス はリモートでかなり制御できるが、通信を担うルーターが死んでは意味がないので、「この機器は絶対にコンセントから抜かないこと」など暗黙的な認識も極力明文化した。

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説明スライドのある1枚

アカウントの準備

自分の Amazon アカウントに実家の Echo を紐付けると、東京にいる自分への Alexa コールで実家の Echo も鳴ってしまう。また、父方と母方の Echo に映したい「孫の写真」も一部異なる。このため、各実家で Amazon アカウントを作成した。この場合、Alexa コールの利用に SMS 認証が必要なので、SIM も SMS ありが必要になる。これを知らずに SMS なし SIM を買い、少し勉強代を払うことになってしまった。SMS 認証が済んだら、私の Amazon アカウントに一度コールして連絡先に自動登録させ、ニックネームを登録する。こうすることで、「アレクサ、○○(ニックネーム)に電話をかけて」で Alexa コールが使える。

祖父母との会話

その後の設置は入念な準備のおかげで順調に進み、無事両方の家と会話できた。その後、特に今回がんが発覚した母方の祖父や健在の祖母とは何度か会話した。祖父は非常に年老いた感じで口周りもしわだらけになっており、病気と時間のどちらがそうさせたのかわからないが、1年半で生じた大きな変化に驚いた。

亡くなる前の最後の祖父との会話も Alexa コールだった。実家から病院に移動する直前、移動式のベッドに母が Echo をかざし、祖父が絞り出す声を伝えてくれた。「ありがとう、こんな高価なものをな、ありがとう」という言葉に「いや、ええんよ、じいちゃん頑張ってな」と返すのがやっとだった。

お通夜

時間はつい数日前、訃報の直後に戻る。お通夜もやはりリモートで見たいという話になり、父が LINE のビデオ通話で私と妹に現場の様子を見せてくれた。もうちょっと良い画質で落ち着いて話したかったので Zoom も課金したが、結局現場がバタバタしていて導入は難しいと判断し諦めた。

祖父の亡骸も見せてもらった。安らかな顔だった。ここでやっと、短い期間ながら Echo を導入してよかったと思えた。これまでの祖父の変化を静止画だけで見ていては、死を受け入れる準備がろくに出来なかっただろうし、後悔もしただろう。声と映像で最後の記憶を分かち合った祖父は、その後お経を上げられ、荼毘に付された。

諸行無常

スマートスピーカーに搭載された自然言語 UI はまだ完璧ではないものの、技術を知らずとも恩恵を享受できる真にバリアフリーな実装として、今回その強力さを示した。父方の祖母は思ったよりスピーカーに順応しており、Alexa に話しかけては昔懐かしいコンテンツを楽しんでいるそうだ。また、残された母方の祖母ともこれからまた通話ができることだろう。自分と関わりのある人と過ごす時間はどれも有限だし、自分の命にも終わりがある。宇宙の時間スケールで見れば人の人生や地球の運命などなんてことはないが、それでもいま生を受けているからには、関わりのある人たちとできる限り良い時間を過ごせるようにしたいものだ。