Zopfcode Essay

140文字で収まらない走り書きの置き場

ハードウェアハックに実用性という概念を持ち込むな

tl;dr

  • コンピューターの動作原理に切り込んで根底から動作を改変するハードウェアハックは「面白いから」やる
  • 「実用性」はハードウェアハックの先にはあるかもしれないが、ハック自体の目的ではない
  • 実用性のあるハードウェアが欲しいなら相応の金を出して買えばいい
  • 素朴な好奇心とパッションと途方も無い努力でできているハードウェアハックを実用性で評価しないでほしい

はじめに

この記事を読まれている皆さんは、おそらくそのほとんどがコンピューターと戯れた経験をお持ちなはずだ。その経験をさかのぼった初期、無限の可能性を秘めた文明の利器を前にして、あなたはどれだけ目を輝かせていたか果たして自分で思い出すことができるだろうか?

当然だ、と多くの人は返すだろう。では目の前にあの時と同じコンピューターを置いたまま、時を現代に戻したとしよう。あなたはその思い出深いマシンに対して、「これは古くて実用的ではないな」などと冷たい言葉をかけるだろうか?

私が日ごろ取り組んでいるハードウェアハック、例えば電子辞書ハックといったトピックは、皆さんがかつて触れた輝かしいコンピューターのように「純粋に楽しいもの」であるのだが、どういうわけか大半のオトナは「それは実用的なの?」とか「実用的かはさておき…」などの呆れた言葉を投げかける。

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私はしびれを切らしている。今日は私のハードウェアハックに対するスタンスを明確にし、趣味のコンピューティングとハックにおいて、「実用性」という評価軸がいかにつまらないものであるかを説明しようと思う。

実用性を求めるべき対象

「実用的」という言葉は、言われた瞬間のニュアンスを総合して端的に言うと、「日頃から安定していて仕事でも使えるかどうか」という意味合いのようだ。

私もそういうコンピューターは常に欲している。0.1秒でも早く処理を終え、壊れにくく、作業を邪魔する少しの要素もあって欲しくはない。だから高いお金を払ってそういう商品を買う。25万円の MacBook Pro と 5万円の eGPU を少しの躊躇もなく購入する。実用性が欲しいなら、お金を出して買えばいい。

これに対してハードウェアハックというのは、元来実用性とまったく関係のない概念だ。コンピューターとして使われることのない電子辞書に Linux を入れて汎用機に捻じ曲げるハックとか、DRAM が4MB しかない Nintendo 64 に2021年の Mainline Linux をポーティングするとか、そういったものが該当する。性能は低いし、キーボードがあっても変だし、満足なメモリもない。そんなポンコツの極みみたいなコンピューターをあえて掘り下げる理由は何なのだろうか。

本質

ハードウェアハックをやる理由はとても簡単だ。楽しいからだ。楽しいからわざわざバラす。楽しいから解析する。楽しい解析が積み上がってもっと楽しい結果と理解に繋がる。それを求めて手を動かしているに過ぎない。その先に実用性が伴えばもっと嬉しいかもしれないが、あくまで本質は楽しさにあることに変わりはない。

その本質が取り違えられ、あるいは忘れられて、「で、そのハックは実用的なの?」とだけ聞かれたときの心中があなたには察せるだろうか。何らかの基礎的な分野で研究してる人に対して「それが直接世の中にどう役立つの?」と聞くのと変わらない。それくらい呆れる投げかけだ。

繰り返すが、実用的なハードが欲しいなら今すぐ金を出して買えばいい。汗水たらしてハックしている人間にいちいち実用性を問う必要はない。

まとめ

言いたいことは大体書いた。まとめると冒頭の tl;dr になる。

私の電子辞書ハックを含むハードウェアハックは、ひとえに好奇心とパッションと途方も無い努力でできている。それは楽しいからであり、実用的なマシンを作り出したいからではない。