注意: 本記事はいかなる OSS ライセンスについてどのような法的アドバイスを与えるものでもありません。ご注意ください。
世の中に存在する OSS ライセンスの数々。中でも一風変わった OSS ライセンスに Poul-Henning Kamp が発案した Beerware (Beer-ware) というものがある。その裏には、条文を起草した経緯や信念を透かして見ることができる。
条文はとてもシンプル。(横幅を縮めるため本文のみを取り出している)
"THE BEER-WARE LICENSE" (Revision 42): <phk@FreeBSD.ORG> wrote this file. As long as you retain this notice you can do whatever you want with this stuff. If we meet some day, and you think this stuff is worth it, you can buy me a beer in return Poul-Henning Kamp
参考の翻訳:
"THE BEER-WARE LICENSE" (第42版): <phk@FreeBSD.ORG> がこのファイルを書きました。あなたがこの条文を載せている限り、 あなたはこれをどのようにでも扱うことができます。もし私達がいつか出会って、あなたがこのソフトに そうする価値があると感じるなら、見返りとして私にビールをおごることができます。 Poul-Henning Kamp
読んで字の如しというか、書いてあるとおり「なんでもできる」権利と「作者と会ったらビールをおごることができる」という権利を付与するものであることがわかる。このライセンスはよくお遊びとして扱われるが*1、作者本人は至って真面目な思いを抱いていて、GNU GPL をむしろ「ジョーク」と呼んでいる。以下、本人の Web ページの本文の抜粋を簡単に訳したものを掲載する。
Beerware はマジなの?
イエス。
… もし私が誰かにあげるためにソフトを書いたとして、誰かに悪用されたりしないために法律用語を何ページ分も貼り付けたりはしたくない。もし私がコードを手放そうと決めたなら、手放す。それだけ。「誰かにとってウン万ドルの価値がない限りは」なんていうくだらない条件なしに。 GNU ライセンスはジョークだと思う。…(中略)…今ではほとんどの FreeBSD の人々がよく使う BSD-lite ライセンスはイイと思うけど、私はこの Beerware License を使うことにする。
…
BSD-like license は、そのシンプルさが魅力のひとつだ。BSD の世界が持つ寛容な価値観をよく知る氏からすれば、GNU GPL の価値観は仰々しく、冗長かつ曖昧に見えるのであろう。
Beerware は、残念ながら今日においては informal(有り体に言えば、雑)で実用的でないとされ、例として Google は Beerware で配布されるソフトウェアへの contribution などを禁じている。この主な原因は、ほとんどの OSS ライセンスが持つ「免責事項」を完全に欠いていることにある。非常に意地悪なケースを考えると、例えば「Google が contribute したコードにあるバグについて、第三者が責任を問い、Google が対応に追われる」といったケースがあり得る。
私自身としては、この Beerware が本当にもたらしたかった世界観に同情したいと思う。自分が書いたプログラムを知り合いのプログラマーが使ってくれて、街角のバーで出会ったときに「ありがとう」とビールをおごってくれるかもしれない。とてもいい話だし、優しい世界じゃないか。友人同士で趣味を共有したいという素朴な思いが、GNU GPL などへのアンチテーゼとして体現したのが Beerware なのであろうと私なりに受け止めている。
ふるさと納税で届いたオラホビール・カンヌキ IPA を味わいながら、Beerware の世界に思いを馳せる新年となった。